観光

明るくて広い空間に、電気を通せば動くという機械が似たものどうし固められて並んでいる。その多くは遠目に見ると四角にぼやけていくような形をしているから、いっそうぎっしりと敷き詰められて見える。

水の音がする。ひとつふたつの最新型らしいドラム式の洗濯機が、ここで洗うためだけに用意された服やタオルをばしゃばしゃいわせている。その前に子供がいて、左へ右へと回るさまをいっさい動かずにじっと見ている。きっと楽しんでいるのだろうと様子をうかがうと、これでもかというほど険しい表情をしていた。

でも、こんな風に動いているのは少しだけで、ほんとうに電気を通すことができる機械もけして多くはない。ほとんどは機械によく似せられた箱だ。

冷蔵庫を開けっぱなしにすると後でひどいことになるけれど、ここでは冷蔵庫のそっくりさんが扉を全開にされ、抽斗という抽斗をだらしなく引っぱり出されている。ゆるされないことがまさに目の前で行われているようで、じわじわと気持ちがよくなってくる。野菜のにせもの、ドアの内側のこことここにおさまるという大小の缶ビールが刷られたぺらぺらのポップ。2リットルのペットボトルは模型ではなさそう。ぽかんと開いた扉に手を差し入れても冷たくはなく、妙だ。

機械を見ても、機械そっくりの箱を見ても、それぞれどういうものなのかはあまりよくわからない。かわいげのあるツラをしているとか、背が高いとか細身だとか。よく比べたら違うところは少しずつ見えてくるから、眺めていてまったく飽きはこないけれど、それがわたしにとってなんなのだろう。強すぎるくらいの照明をうけて、さまざまに光ってみせる箱や筒や板……。ここにあるすべては、通り過ぎるだけのわたしにはどうしようもない。のろのろと歩きながら、そういう気持ちが観光なんだと思う。もっというと旅のことだと。

でも、はじめはそんなつもりじゃなかった。数年ぶりに引っ越しをすることを決めたからここにきた。来年の2月のことはいまはまだ遠すぎるのか、なにひとつまとまらないまま、いくつもフロアを通り過ぎたら表はもう暗くなっていた。すっかり乾いた傘を差して出る。

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